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* category: 展覧会

メアリー・カサット展 夜間特別鑑賞会@横浜美術館 

2016.07.06
Wed
18:32

 横浜美術館で9月11日まで開催のメアリー・カサット展(公式サイトはこちら)。夜間特別鑑賞会に参加しました。プーシキン美術館展のときもそうだったけど、プレスリリースなどもいただけるのって嬉しいね。オリジナル封筒もすてき。 

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 印象派の女性画家というとベルト・モリゾ(1841-1895)ぐらいしか思い浮かびませんでした。しかもモリゾの作品というより、彼女をモデルにしたマネの作品。ほか、この記事を書くために調べて見ると、エヴァ・ゴンザレス(1849-1883)、マリー・ブラックモン(1840-1916)そしてカサットの名があがります。 

 
*会場内の画像は主催者の許可を得て撮影したものです。



 当日は簡単な注意と案内のあと、主任学芸員の沼田さんによるギャラリートーク→自由観覧、という流れでした。

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二階展示室に続くエスカレータを上り、
 左へと目を向けると…


 

Ⅰ 〔画家としての出発〕


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・メアリー・カサット<<バルコニーにて>> 1873年、フィラデルフィア美術館
 

 迎えてくれるのはこの作品。いかにもスペイン!
 メアリー・スティーヴンソン・カサットは1844年、アメリカ合衆国のピックバーグ近郊のアラゲニー生まれ。裕福な家庭の出で、カサット7歳のときには次兄の病気治療のため一家でヨーロッパに渡り11歳で帰国。その後、16歳でフィラデルフィアの美術アカデミーに学び、1865年(21歳)には父の反対を押し切ってパリに渡りました。普仏戦争(1870)に際して一時帰国しますが1871年にふたたび渡欧し、イタリア、スペイン、オランダにも滞在。マドリッドではプラド美術館でベラスケス、ティツィアーノ、ムリーリョの作品などを研究し、その後向ったセビーリャには1872年10月から半年滞在しました。 沼田学芸員によると、扇子を持つ右側の女性は、あえて難しい角度、難しいポーズをとらせたとのこと。 
 カタログ掲載の論文「メアリー・カサット-ある女性画家の成功譚」(ナンシー・モウル・マシューズ)を読み、ひとりの画家としての力量のたしかさ以上にカサットの気概が伝わってくる気がしました。 
 
「リンダ・ノックリンが後進に大きな影響を与えたフェミニズム研究の論考『偉大なる女性アーティストが存在しなかったのはなぜか』で指摘したように、女子学生は、世界中のほとんどの美術アカデミーにおいて人体研究の授業から締め出されていたため、人体を描く自信を欠くことになった。そのような自信は、解剖学研究や実際の解剖、そしてさまざまなポーズによって生じる筋肉や皮膚の変化の研究を通してえられるものだからだ」。その代わりにカサットらが授業で使ったのは着衣のモデルで、他にも自費でモデルを雇ったり、お互いにモデルを務め、美術館や展覧会で学んだり模写し、「おそらく女性にとって、とりわけカサットにとって、このような『制作環境』であったがゆえに、彼女たちは、とくに落ち着いた表情を見せる肖像画法や、テクスチャーや女性の身体に呼応した衣服の抽象的な形状を強調したコスチュームの描写の技術を磨くことができたのである」(メアリー・カサット展カタログp.10)。

 

 
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・メアリー・カサット<<刺繍するメアリー・エリソン>>1877年、フィラデルフィア美術館
 

 
Ⅱ 〔印象派との出会い〕  
 1868年に<<マンドリン奏者>>(今回の出展なし)が初入選して以来、サロンにも入選するようになってきたカサット。ですが決まり事の多いサロンに疑問を持ち窮屈に感じるようになっていたところ、1875年頃、パリの画廊に飾られたドガの作品を見て衝撃を受けます。ふたりの出会いは1877年、ドガがカサットのアトリエを訪ね印象派展に誘い、カサットはこれを受けたのでした。カサットは1879年の第4回印象派展に初参加、以後第7回をのぞいてすべての印象派展に出品することになります。
  本展覧会でカサットの作品のみならず、同時代の画家や〔仲間〕たちの作品も展示されているのですが、ドガから一点。 
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・エドガー・ドガ<<ルーヴル美術館考古展示室にて、メアリー・カサット>>1879-80年、横浜美術館
 *横浜美術館収蔵。カタログには「小島烏水旧蔵」とある! 
 ドガの死までふたりの交流は続き、ドガは繰り返しカサットをモデルにした作品を制作しましたが、
「美しい女性の肖像ではなく、美術館で絵画鑑賞をする女性や帽子屋でおしゃれを楽しむ女性など、都市の中でさっそうと生きる近代的な女性の姿」(カタログp.50)だったそうです。
  ステッキを手に颯爽とした後ろ姿を見せている衣の女性がカサット、左側に着席しているのはカサットの姉リディア。

 

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・メアリー・カサット<<桟敷席にて>>1878年、ボストン美術館 
 ぜひ間近で見ていただきたい一枚。今回の目玉のひとつでもあり、チラシにも使われています。わたしにとっても、お気に入りベスト5に入る作品です。展覧会ウェブサイトの「みどころ」の筆頭で紹介されているので、より大きな画像&解説つきでまずはどうぞ。
  沼田学芸員によると、印象派には・風景 ・ありのままの現代生活 を描いた流れがあるが、カサットは(そしてドガも)後者に関心を寄せていたとのこと。
  手前に置いた黒衣の女性は詳細に、奥に位置する他の桟敷席の観客たちは粗いタッチで。 でもよく見ると、上段の桟敷から身を乗り出すようにこの女性を見ている男性がいる。舞台(やほかの観客だって?)を見る女性…を見る男性…など含めて作品として見るわたしたち。という視線のゲームにベラスケスの「ラス・メニーナス」を思い出しました。 
 沼田学芸員はこの一枚を「挑戦的な作品」と表紙、〔わたしは男性に見られるのでなく、わたしは、見る〕というカサットの宣言のようだとコメントしました。
  カサットの生涯と作品には家族の存在も欠かせない。というわけで、家族の肖像を集めた展示室もありました。

 
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(左)メアリー・カサット<<アレクサンダー・J・カサット>>1880年頃、デトロイト美術館
 (右)メアリー・カサット<<ロバート・S・カサット夫人、画家の母>>1889年頃、デ・ヤング、サンフランシスコ美術館 
 部屋の形およびカメラの画角からこの二枚しかおさめられなかったのですが、姉リディアを描いた絵も並んでいます。
 それぞれ別の収蔵先だけれど、今回家族並べてみたとのこと。楽しい。
 そしてわたくしごとですが、この母の肖像にすごいデジャブが…デ・ヤングにあるっていうなら2012年に見たかな? と思ったら、デ・ヤングの記事で4作しか写真載せてないのにちゃんと入ってた。なんともハンパな記憶力よ…。


 

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・メアリー・カサット<<眠たい子どもを沐浴させる母親>>1880年、ロサンゼルス郡立美術館
 カサットは〔母子像の画家〕とも呼ばれたそうで、その代表作がこちら。最初に紹介したプレスリリースや展覧会カタログの表紙を飾る、この展覧会のキービジュアルです。
  母子像の最初期の一枚とのことですが、やわらかい筆致のなか、盥でスポンジをしぼっている母の右手にフォーカス。しっかり働く母の手、という沼田学芸員の指摘、興味深い。
 

 
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・メアリー・カサット<<浜辺で遊ぶ子どもたち>>1884年、ワシントン・ナショナル・ギャラリー
 かわいい。海とか子どもの肌の表現からかな? ソローリャSorolla思い出しました。
  それぞれ遊んでるけど肩をくっつけてる子どもたちは、カサット自身と、仲のよかった姉リディアを思わせるそうです。 
 *ところで兄アレクサンダーの肖像の解題(@カタログ)に「稀少な男性像」とあったけどお父さんは描かなかったのかな? 画家になるのを反対したから? とも思ったのですが、カタログで年譜を見たら結局ご両親も1877年にはカサットのいるフランスに永住するために姉リディアとともにやってきたし、画像検索したらスケッチだけだけどお父さんの絵も見つかり、なんとなくほっとしました。 
 家族の絵&母子像の展示室のつぎは、同時代の女性画家たちとカサットの作品を並べた部屋です。
 ベルト・モリゾ、マリー・ブラックモン、マリー・ゴンザレス。そう、印象派の女性画家揃い踏み。


 
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・エヴァ・ゴンザレス<<画家の妹ジャンヌ・ゴンザレスの肖像>>1869-70年頃、個人蔵  

〔展覧会概要〕
メアリー・カサット展 http://cassatt2016.jp/ 
会場:横浜美術館
会期:2016年6月25日(土)~9月11日(日) 
開館時間:10:00~18:00 *9月2日(金)は20:30まで開館(入館は閉館の30分前まで) 
休館日:木曜日(ただし8月11日は開館) 
主催:横浜美術館、NHK、NHKプロモーション、読売新聞社 
後援:横浜市 
助成:駐日アメリカ合衆国大使館 
協賛:大日本印刷
協力:横浜高速鉄道株式会社、横浜ケーブルテレビジョン、FMヨコハマ、首都高速道路株式会社 
当日観覧料:一般1600円、大学・高校生1100円、中学生600円、小学生以下無料
 
京都にも巡回します。→2016年9月27日(火)~12月4日(日) 京都国立近代美術館
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